アントワンヌ・リエナルト

 注目の産地コンブラシアンのナチュラリスト

純度の高いコンブラシアン石灰岩を活かしたテンションの高いブルゴーニュ
ナチュラルでもブルゴーニュの繊細さを失わない丁寧なワイン造り


❖コンブラシアン石灰岩

価格高騰が続くブルゴーニュ。もうブルゴーニュで自然で偉大なワイン。そして、思ったより安いと思えるワインを探すのは諦めた方が良いと思っていませんか?
『土地の価格がワインの価格に反映されるのだからヴォーヌ・ロマネは高くて当然。コンブラシアンはブルゴーニュで最も軽視されてきた。温暖化の今、その価値に皆、気付き始めている』
2011年、アントワンヌ・リエナルトは、ひいお爺さんがワイン造りを止めてから長く貸し出されていた4.2haの畑を相続し、コンブラシアンでワイン造りを開始。
『コンブラシアンは他の村より表土が薄く、母岩であるコンブラシアン石灰岩が地下深くまで続いている。この石灰岩は白く透き通り、純度が非常に高くなっている』
この母岩はムルソーからシャンボール・ミュジニーまで続き、レ・ザムルーズも同じコンブラシアン石灰岩。純度が高く硬いのでコンブラシアン村では建築用に切り出されてきた歴史がある。
『純度が高い石灰岩が豊富だった為に葡萄畑ではなく、石切り場として栄えたのがコンブラシアンだった。それだけ質の高い石灰岩盤が存在する』
コンブラシアン石灰岩の影響でワインは火打石や燻製の香を得て、力強いミネラル、ピンと張り詰めたようなテンションを持ちます。暑い年でも果実に隠れない強いミネラルがあるのです。
『表土は30cm程度しかない。土壌としては非常に痩せいているので、葡萄樹は苦しみ、自然と収量は落ちて、多くても40hl/haが限界という厳しい環境』
適度にストレスを感じた葡萄樹は成長より少ない果実に栄養を送るようになる。乾燥した年では、収量は自然と27hl/haまで減ってしまいます。


❖ラングロールで開眼

アルザス出身のアントワンヌ。ドメーヌ・ジョブロの娘、ジュリエットと結婚して、当初はジョブロ流のワイン造りを採用。現代的スタイルで今の造りとは全く違うものでした。
『ラングロールを飲んで自分のワイン造りに疑問を持ち始めた。アミオ・セルヴェルで働きながら学び、より自然で土地を表現するワインを目指すようになった』
ジュリエットと考え方が合わず、離婚。離婚を機に、2.4haの所有畑を全てビオディナミに変更。醸造も叔父さんの頃のシンプルなものに戻していきます。
『アミオ・セルヴェルでの4年間で畑の格ではなく、テロワールを意識したワイン造り。できるだけ介入しないことで個性を際立たせる事を学んだ』
畑も4haまで増え、醸造所も改築。アンフォラでの醗酵、熟成も開始。現在では妹のエローズと共に総勢5人で畑作業から醸造、販売までを行っています。
『以前のワインはコンブラシアンの味わいではなかった。今のワインはコンブラシアンでしか造れない味だと思う。テンションがあり、動きがあり、垂直性のあるワイン』
過小評価されてきたコンブラシアン。ヴォーヌ・ロマネのような大きさはないが、石灰由来の独特の個性が主張。これから注目される産地である事は間違いないのです。


❖自然農法と全房醗酵

2011年からリュット・レゾネでしたが、2015年から本格的にビオディナミを導入し、2018ヴィンテージからは全てのワインが、エコセール認証を取得しました。
『畑では一切の化学薬品が排除され、ビオディナミ調剤のみで病害虫対策が行われる。2015年からはトラクターも廃止。馬での耕作に切り替えた』
水晶は光合成を助け、ノコギリソウは硫黄成分のバランスをとる。イラクサは窒素を保持し、カノコソウはリンのバランスを高め土壌を活性化する。
『月の動きに合わせた栽培や醸造は昔のブルゴーニュでは日常的に行われてきた。ビオディナミが特別な訳ではない。ひいお爺さんの時代に戻しただけ』
ボルドー液も使用しない。銅と硫黄も基本的には使用しない(必要な時は使用)。ウドンコ病にはスギナを煮出したお茶を散布したりと、ホメオパシー(同毒治療)で対応。
『人間の介入をできる限り少なくすることで畑の個性が強くなるのだから、畑に過度な変化を与えてはいけない。有機肥料さえも葡萄樹にとっては過激すぎる』
更に、葡萄畑の周囲にできる限り森を残し、アプリコットや葡萄以外の植物が育つ環境を維持しています。生物多様性を確保する事で土壌は活性化します。
醸造はシンプル。何故なら収穫された時点で葡萄は表現できる情報が全て揃っていると考えているから。良い素材を痛める事なく、ワインに変えていくのが醸造家の仕事。
『全房での醗酵は重要。年によって30~50%を全房で発酵。マセラシオンは15日程度で、過度な抽出を避けるために果帽をできるだけ刺激しない』
熟成は基本的に新樽を使用せず、2~5年樽を使用。澱との接触は酸化防止が目的でタンパク質の摂取ではないので、できる限り動かさない。