アンドレア・アリチ
高地・ノンドサージュ、注目の『フランチャコルタ』
アルプス山脈の岩盤から産まれるシャンパーニュのような酸味と硬質感
熟成し旨味を引き出しリリース、フランチャコルタの新時代
❖石灰岩版上の畑❖
フランチャコルタの東端「グッサーゴ」は400年のワイン造りの歴史がある。丘陵地なので歴史的にスティルワインが造られてきた。
『赤ワインが造られてきた産地なのでピノ・ネロの古い樹や密植された畑が残っている』
2002年、アリチ家の息子アンドレアと醸造コンサルタントジョヴァンニが出会ったことでフランチャコルタ造りが始まった。ジョヴァンニは「ジャンニ・マシャレッリ」で働いた後、コンサルタントとして独立。「プリンチピアーノ」のスプマンテも手掛けている。
『通常、フランチャコルタは平野で造られる。僕等の畑は標高400mの高地。平野部はモレーン土壌だが丘陵部は石灰岩盤の上の畑』
「グッサーゴ」は東フランチャコルタを南北に通るアルプス山脈に位置している。石灰岩盤が隆起した山なので痩せて貧しい土壌。1年を通して冷涼。
『石灰岩盤上で育った葡萄は果実よりも塩味を感じさせる。ミネラルが豊かで硬いので少し長い瓶熟が必要。熟成すると旨みが出る』
畑は8カ所に分かれていて崖に段々畑のように作られている。平野部との標高差は200m。年間の平均気温で3度程度平野部より寒い。ビオロジックで管理されていて、全て手作業。野生のアスパラやチポッラ、ニンニク等が自生している。下草は生やしておき、雨量をみながら年に3~4回だけ刈り込む。
『高地で風が通るので湿気が溜まらない。病気に弱いピノ・ネロの栽培にも向いている。冷涼なので葡萄は酸を残しながら完熟する』
❖ノン・ドサージュ❖
『エルブスコは厚い果実味が特徴なのでドサージュすることでバランスする。ミネラルが強く、酸がのったグッサーゴにはドサージュは必要ない』
醸造はシンプル。毎年「エルブスコ」より1週間遅い8月後半に完熟の1歩手前で収穫。
自然酵母のみ。ステンレスタンクで低温発酵。発酵段階での酸化防止剤は使用しない。区画毎に収穫し、醸造することで畑の個性を残す。ティラージュする時に各畑をアッサンブラージュして味わいを整える。全てのボトルにティラージュとデゴルジュマンの時期が明記されている。通常のフランチャコルタはデゴルジュマンしてからすぐに出荷されるが、彼等はデゴルジュマン後1年瓶熟してから出荷している。
『澱と触れ合っている間は還元的。離れてからワインは成長を開始する。硬質な僕等のワインは少し寝かせることで旨みが出てくる』
❖ノン・ドサージュ❖
ボリュームと甘みが特徴であったフランチャコルタが変わろうとしている。「カ・デル・ボスコ」や「ベッラヴィスタ」といった大手は平野部に位置している。近年暑いエルブスコでは酸度が確保できなくなっている。
『温暖化もあって冷涼な東フランチャコルタが注目されている。大手生産者はグッサーゴ等丘陵部の畑を買い始めている』
最も標高の高い畑を所有するアンドレア・アリチは硬質でシャンパーニュに近いバランス。昆布出汁のような旨みがある。
『薄い果汁では深みはでない。凝縮した葡萄は高い樹齢と密植率がなければならない』
新しく植樹された若い樹では石灰岩盤の下まで根が伸びない。表土の粘土質にしか根が伸びていなければ石灰岩盤の恩恵は受けることはない。
『土地と造り手の個性を表現するには買い葡萄や買いワインではなく、栽培から始めるべき』
シャンパーニュに比べて遅れているフランチャコルタ。造り手の意識が変わり始めている。彼等のような小規模な造り手に注目したい。