アンドレ・ボーフォール

●ナチュラル『シャンパーニュ』の元祖●

1969年よりシャンパーニュで一早くビオロジックを導入。一切の農薬を排除した葡萄栽培と瓶内2次発酵も天然酵母のみで行うなど、独自の手法から生まれる個性派シャンパーニュ。


60年代からビオロジック

『当時アンボネイの僕の畑の隣人は僕が始めたビオ ロジック農法を有害だとして非難した。農薬を多量 に撒き散らす彼等こそが自然の生態系を破壊して いるというのに』

「アンドレ・ボーフォール」2 代目「ジャック・ボーフォー ル」は 1969 年より自然農法を開始。1971 年には一 切の除草剤や化学薬品の使用を中止。

『雨が多いので農薬の使用量がボルドーについで多 いと言われるシャンパーニュ。自然農法の導入は無 理と言われた産地の 1 つだった』

しかし、彼等はこの地に最も早く自然農法を導入する ことに成功した。ビオディナミでも使用が認められてい る銅も土壌に長く残留するので 100 年単位で考えれ ば生態系のバランスを崩すとして使用しない。 コンポストやハーブ、ホメオパシー(同素療法)のみで 畑の手入れをしている。 「アンボネイ」の他にコート・デ・バールの「ポリジィ」に も畑を所有。異なる 2 つの地域で独自のスタイルの シャンパーニュを造っている。

 

熟度と酸の独特のバランス

『多くの造り手は 8月にバカンスを取るが、僕等は必 ず畑にいる。この時期の葡萄を理解することでワイ ンが決まる。最近は早めに収穫をする事が多いし』

現在は引退した「ジャック」に変わり、3 世代目にあた る 9 人の兄弟が栽培・醸造を担当。父の代から彼等 が最も重視するのが葡萄の熟度レベルと酸の残り具 合。この 2 つがワインの骨格となり、長期熟成を可能 にすると考えている。 その為、他の造り手と全く違う収穫タイミングとなるこ とも多い。

『葡萄の熟度が充分と言えるレベルまで上がったと 判断すれば潜在アルコール度数が低くても、酸度が 下がる前に収穫してしまう。大事なのは糖度ではな い。熟度と酸なのです』

一般的な考え方では PH10 以下で収穫が基本。し かし、彼等は PH3 以下と高い酸度を得ている。 結果的にアルコール発酵、マロラクティック発酵後も 十分な酸がワインに残り、醸造中に SO2 を加えなく てもワインを酸化から守る事ができるのだと言う。

『自然なワイン造りをする為に酸を重視してきた。父 はこの強い酸とバランスを取る為にドザージュを多く していた。 この 10 年で収穫時期を見極め、酸と糖のバランス を取れるようになった。だからドザージュを減らせるよ うになった』

日本ではドゥミ・セックが有名だが、既にフランス国内 ではブリュット・ナチュールの方が人気となっている。

 

ティラージュ時も酵母添加なし

酸と共に彼等が拘るのが野性酵母のみでの発酵。1 次発酵は長期使用している古木樽で野性酵母のみ によって行う。 大きく違うのは 2 次発酵。通常はティラージュ地に培 養酵母を加えて瓶内で 2 次発酵を行うが、「アンド レ・ボーフォール」ではティラージュ時にも酵母の添 加はしない。

『1 次発酵後にも僅かに残る酵母が活性化していれ ば、瓶内 2 次発酵時は葡萄の濃縮果汁を加えるだ けで自然に発酵が始まる。重要なのは畑で自然酵 母をしっかり育てること』

ヴィンテージによっては自然酵母の働きが弱く、2 次 発酵後もガス圧が 1.2 気圧程にしか上がらない事も ある。(通常 5 気圧以上必要)

『その際は、全てのボトルからワインを木樽にもう 1 度戻し、活発な酵母を選び、移してあげることで全 てのワインを活性化させる。その後、再び少量のティ ラージュをして瓶内 3 次発酵をする』

全て手作業なので大変な仕事。自然酵母のみのワ イン造りは自然との闘いでもある。 年間の生産量は僅か2,500ケース。現在はアンボネ イではなくポリジィに新しい醸造所を建築中。将来的 にはポリジィに全ての機能を移動する予定。