アンドレア・スコヴェッロ

モンフェラートに昔あったはずの農家ワイン

モンフェラートの南部、ピオンツォ村の赤土で育つバルベーラは濃厚で旨味溢れる
絶滅危惧種で酸度の高いバラトゥチャットを単一でワインにしている


❖モンフェラートの可能性

モンフェラート北部はポー川の影響で川に由来する小石や砂質が多くなるのでバルベーラでも繊細で細身のスタイルになります。カッシーナ・イウリが代表的です。
『モンフェラート南部はランゲに近く、海底が隆起した事で出来上がった土壌で粘土石灰質。砂は少なく、赤土で比較的重い土壌なのでワインも大きく重厚に仕上がる』
同じモンフェラートでも正反対のテロワールで北部ではピノ・ノワールやグリニョリーノ。南部ではネッビオーロやフレイザ等、酸度が高く成熟期の遅い葡萄も良い結果を出しています。大都市、アスティから南に6km、モンフェラートの南部に位置するコスティリオーレ・ダスティ、ビオンツォ村で4世代続く葡萄栽培農家に生まれたアンドレア・スコヴェッロ。
『バルベーラを主体にネッビオーロ、フレイザ、ブラケットといった土着品種は樹齢30年以上。それに希少な品種バラトゥチャットと土壌に相性の良いソーヴィニヨン・ブランも栽培』
19世紀初めから葡萄栽培農家としてスタート。1990年にはアンドレア・スコヴェッロとしてワイン造りを開始。2013年に父親が亡くなり、アンドレアが引き継いでいます。
『父親はワイン造りに興味がなかった。薬剤を使わない自然な葡萄栽培や葡萄樹の選定はお爺ちゃんから習ったので、現代的でなく、この地の伝統的栽培を継承している』
ビオンツォ村は僅か100人が暮らす小さな村。標高は170m程度で酸化鉄を含む赤土の土壌で少し砂を含む。10軒のカンティーナがあり、その中にはカッシーナ・ロエラも含まれます。
『カッシーナ・ロエラのクラウディオがワイン造りの先生。品種毎の仕立や、収穫のタイミング。醗酵の注意点。熟成の仕方もクラウディオが教えてくれた』
チャピン(カッシーナ・ロエラの白ワインの名前になっている)と呼ばれる地区にカンティーナがあり、その周辺が畑で、全部で6haを所有しています。
『チャピンは南西を向いた円形劇場のような形状で急斜面。水はけが良く、理想的日照があり、風もあるので病気が少ない。昔の人は守られた畑と呼んでいた』

❖昆布の粉で病気予防

20年以上前に父親から畑を引き継いだ時、葡萄畑は農薬で疲れ、エネルギーを失った状態でした。アンドレアは直ぐに農薬の使用を中止。ビオロジックに転換します。
『畑で使用するのは極少量の銅と硫黄。それと、プロポリスやヴィネガー、グレープフルーツ、海藻の粉といった自然由来の物のみ。有機認証も取得している』
毎日畑で働き、家族は畑の中にある家に住んでいるから家族の為にも農薬は使えない。ビオロジックは生活環境も良くなり、葡萄果汁もエネルギーを得られるのです。
『ビオロジックに転換したので3人が畑に常駐し、葡萄樹の状態を見ながら作業を行う。収穫時は8人まで増やして最適なタイミングでの収穫を行う』
オイディウム等の病気に対しては北側の葉を除葉する事で風通しを良くしながら南側の葉は残し、葡萄果実を強過ぎる日照から守っています。
『モンフェラートは暑く、雨が少ないので土壌が乾燥してしまう。冬に1回だけ土を耕し、夏まで下草を伸ばして地表から水分が失われないようにする』
剪定や除葉等の畑仕事は全てアンドレア本人が1人で行います。葡萄樹の状態を知り、それぞれの状態に合わせて処置をする事で葡萄樹をベストの状態に導きます。
『葡萄樹に適度なストレスを与える事が大切。温暖化により乾燥がきつくなっているが、葡萄樹が強くなり、正しい剪定、栽培をすればバランスのとれたワインが出来る』
モンフェラートに相性が良いと考えるソーヴィニヨン・ブランに続き、暑くても酸度を得られる希少な品種バラトゥチャット。砂質区画にはグリニョリーノを試すつもりだそう。

❖バラトゥチャットを単一で

イタリア人としては珍しく、物静かでもくもくと働くアンドレア。ナチュラルワインを造りたい訳ではなく、この地方で昔から造られてきた田舎のワインを目指しています。
『醸造は野生酵母のみ。アラビアガムやタンニン等添加物は一切使用しないし、酸や糖分の添加も一切行わない。葡萄の力強さを感じさせるワインが理想』
ソーヴィニヨン・ブランの醗酵、熟成にはアンフォラも使っているが、基本的にはステンレスタンクとファイバーグラスで発酵。熟成にはこの地方の伝統であるアカシア樽も使用。
『この地方の農家は70年代まで非常に貧しく、農薬も醸造設備も買えなかった。オーク樽も高価で買えなかったので代わりにアカシア樽が使われていた』
今、アンドレアが注目しているのがバラトゥチャット種。この地方の絶滅危惧種で暑くても酸度が確保できる品種として、色々な造り手から期待されている品種です。
『厚い果皮を持ちオバール型。晩熟な白品種であるバラトゥチャットは酸度が高く、レモンのようなフレッシュで爽やかさにモスカートのような香も。果皮は多くのタンニンを含む』
温暖化による酸不足に悩むモンフェラートでは10以上の造り手が既に栽培を始めているが、バラトゥチャットを単一でワインにしているのはイウリとアンドレアだけ。洗練さを全く感じさせないアンドレアのワイン。今の整頓された均整のとれた味わいのワインに警笛を鳴らすかのような手作り感覚の美味しさがを感じて下さい。