A.R.ルノーブル

 コート・デ・ブラン、グラン・クリュ・シュイィのオイリーさ


コート・デ・ブランで最もオイリーで肉付きのよいシュイィの個性を最大化
マグナムボトル(コルク栓)熟成のリザーブワインによる複雑性


❖なんとか続いた家族経営

『シャンパーニュはフランスの古典技術なのです。自然(テロワール)と職人が造り上げます。工場で計算されて経済を回すのではなく、人間が造る作品なのです』
長女、アンヌが社長。栽培と醸造の勉強をしてメゾンで長く働いていた弟、アントワンヌが栽培、醸造担当の家族経営。急成長を遂げたメゾンとしてフランス国内で注目の的。
『父、ジョセフは苦しい経営の中で1990年からメゾンの売却を画策したが、アンヌの説得で売却を諦め、1993年、兄弟によって事業の継続が実現しました』
第一次世界大戦中にアルザスから母方の実家であったシャンパーニュに逃げてきたドイツ系一族が祖先。1915年にはワインの販売を仕事として生計をたてていました。
『1920年、アルマン・ラファエルはシャンパーニュの生産を開始。終戦直後だった為、ドイツ系の名前を隠し、ARルノーブルと名乗ります。ARは自身のイニシャルでした』
自身のイニシャルとノーブル(気品)のあるワインを造るという意味を込めてARルノーブルとしました。当時からドイツ系の生産者は多かったのです。
『こうして100年以上、4世代に渡り、家族経営を続けてきたのがARルノーブル。大資本が入っているメゾンが多い中、一切の出資を受けず独立している珍しいメゾン』
だから、副社長のアントワンヌが醸造を担当し、短期的利益ではなくワインの品質を主眼にARルノーブルらしい味わいを維持し続ける事が出来ているのです。
『所有する畑はコート・ド・ブラン・グラン・クリュのシュイィを主体にプルミエ・クリュのビスイユ、高品質のムニエで有名なダムリィの3ヶ所で合計18ha』
ほとんどがコート・ド・ブラン・グラン・クリュのシュイィなので、彼等が使うシャルドネは全てがグラン・クリュ・シュイィ。ミネラリーでも厚みがあり、リッチな個性を強く表現しています。


❖生物多様性

アントワンヌはメゾンを受け継いだ1993年から畑の改革に着手します。優れたテロワールに畑を所有しているのに、それを活かしきれていないと感じたのです。
『父のワインは重く、表情に欠けていた。収量が多く、葡萄樹が土壌を表現できていない状態だった。畑の改良こそが、最も大変だが、やるべき作業だと考えた』
収量を抑える為に仕立を変更。枝を短く剪定し、葉の量を増やします。下草を生やし、葡萄樹に適度な競争環境を与え、ストレスをかけていきます。
『仕立を変更するだけで葡萄樹は弱った。葡萄樹自体にエネルギーが足りていなかった。肥料、一切の農薬の使用を中止し、葡萄樹を自然に戻していきます』
自然農法の導入だけでなく、畑の周囲に一定量の森を残し、葡萄以外の果実の栽培、花の栽培も開始。葡萄だけでない生物多様性を目指しました。
『更にシュイィでは蜜蜂の飼育も開始。葡萄樹の受粉にも貢献しながら、葡萄畑周辺の生物サイクルの最適化に貢献。そして、シュイィの葡萄の蜂蜜の生産も開始』
下草を刈るのは病気対策の時と収穫前1ヶ月で必要な時だけ。それ以外は自然に伸ばし続けます。グラン・クリュでは珍しい徹底した自然農法の畑となりました。
『ビオディナミには興味がない。生物多様性を維持し、自然のなかで葡萄を育てる。2012年にはHVE(Haute Valeur Environnementale)に認定された』
HVEは自然環境を維持する事を目的とする認証。有機認証とは違い、葡萄畑の周辺の自然環境までもが対象となる厳しい認証でシャンパーニュでは2社のみが認証されている。


❖マグナムボトル熟成リザーブワイン

伝統的コカールでの圧搾後、ステンレスタンクでの比較的低い温度での発酵。一部は大樽、古バリックでの発酵。全ては区画毎に出来るだけ細かく分けて醸造されます。『200個の古バリック、9個の大樽とステンレスタンクに分けて区画毎で発酵させる事で色々な個性の原酒を造り出し、これをアッサンブラージュする事で奥行きを得る』

温暖化に対応し、近年では収量の半分程度をノン・マロラクティックで仕上げる。シュイィのオイリーさを引き立たせる為に、よりフレッシュで重くないスタイルに変化しています。
『グラン・クリュ・シュイィはリッチでオイリー。ブルゴーニュに例えるならムルソーの肉付き。このリッチさだけでは重いので、ノン・マロのフレッシュさや、真っすぐさが必要』
リザーブワインも特徴的。そのほとんどはマグナムボトルに詰め、コルク栓をしてセラーで寝かせている。毎年、5,000本が詰められるので5年で25,000本が熟成中と言うから驚き。
『ボランジェは最高級キュヴェにマグナム熟成のリザーブワインを使うが、僕達はベースキュヴェに使う。ワインにより多くの要素を与える事を意識している』
1次発酵が終わったら極少量の酵母を足してマグナムボトルに詰める。こうすることで若干の発酵を促し、瓶内に二酸化炭素を充満させ、SO2無しで酸化から守っている。
『マグナムに入れコルク栓で熟成させるとボトル毎に違う個性のリザーブワインが完成する。これも多くの要素をワインに与える事になる。決して酸化的ではない』
「Mag」という文字が記載されているシャンパーニュにはマグナムボトル熟成のリザーブワインが使われています。以前より、明らかに深みが増しているのが感じられるはず。
『過度でなく、良いバランスの中でシュイィらしい肉付きのよさを活かしていきたい。料理と同じでオイリーであるからにはレモンのような爽やかさが必要なのです』