ベニート・フェラーラ

●『元硫黄採掘場』の畑は強烈なミネラル●

グレコ・ディ・トゥーフォの中で最も標高が高く、硫黄、マンガンなどのミネラルが強い土壌を持つ地域がサン・パオロ・デ ィ・トゥーフォ。他の地域ではない硬質でまっすぐな味わい。

元硫黄採掘場の畑

1970 年代まで天然硫黄の採掘で賑わっていた「サン・パオロ・ディ・トゥーフォ」の町。 この町で 4 世代に渡って農業を行ってきたのが「ベニート・フェラーラ」。1970 年代後半、現当主「ガブリエラ・フェラーラ」の父によって葡萄が植樹され、ワイン造りが本格的に始まった。現在は「ガブリエラ」と夫「セルジオ」が栽培から醸造まで全てを担当している。

『1991 年が初ヴィンテージ。友人サルヴァトーレ・モレッティエリが栽培から販売まで助けしてくれた』

初ヴィンテージを「エノテカ・ピンキオーリ」が買い占めたことで話題となり、一気に有名になった。彼等の畑がある「サン・パオロ・ディ・トゥーフォ」はグレコの生産地域の中で最も標高が高い500m。

『表土は白く石灰が豊富な粘土質。土壌は硫黄含有量が多く畑にも天然の硫黄が出てくる』

硫黄採掘場は現在閉鎖されているが天然の硫黄は未だに地中に多く含まれ、葡萄は強烈なミネラル感を得ている。「サン・パオロ・ディ・トゥーフォ」の丘は周囲を更に高い山に囲まれていて1年中風が吹き下ろすので葡萄は乾燥する。葡萄は常に健康を保つ。

『湿気によってカビが発生し病気が出る。風で乾燥すると病気は激減する。よって畑ではボルドー液も必要ない。蜂蜜、海藻、ヴィネガーで対応する』

下草が生える森のような自然な畑。近年、この地域は注目されていて「マストロベラルディーノ」社等の大手によって買い進められている。大手の進出によって自然な葡萄畑は減っていく。効率的な農業は畑の緑を奪ってしまう。

『除草剤を使えばワインは表現力を失う。生命力が弱いのだから。茶色く枯れた草の畑は美しくないし、 生命力がなく、寂しくさせる』


単一畑ヴィーニャ・チコーニャ

畑では一切の化学薬品を排除し、撒くのは極少量の銅と天然の硫黄のみ。
 

『雑草や刈った葉や枝はそのまま土壌に返す。有機栽培をベースとした循環型農業を実践している。蜂も育てていて畑には猪も住んでいる』

畑は森に隣接していて自然が残っている。訪問した日は畑にスギナを煮出した液とヴィネガーを撒き、ベト病の予防をしていた。

『収穫時期も蜂が教えてくれる。分析はしない。完熟した葡萄は独特の香を出す。その香は蜂を引きつける。これで葡萄が完熟したか解る』

仕立はグイヨ。伝統的な棚仕立は仕立が高いので地熱が葡萄に伝わらず熟すのが遅くなる。標高が高いので低く仕立て、地熱で葡萄を完熟させる。グイヨの欠点は下草が多いと湿気が溜まりカビが発生することだが、自然風が強く、乾燥を促すのでカビの問題は無い。

『高地なので熟すのに時間が必要。例年収穫が始まるのは 10 月中旬。グレコの産地で最も遅い』

■グレコ・ディ・トゥーフォ・ヴィーニャ・チコーニャ 最も重要なワイン「グレコ・ディ・トゥーフォ・ヴィーニ ャ・チコーニャ」は平均樹齢 50 年を超える畑。 表土はグレーがかった粘土。地中はトゥーフォ主体で 硫黄含有量が極端に高い。よってベースのグレコより も硬くミネラル分に富む。

■グレコ・ディ・トゥーフォ ベースのグレコは 5 ヶ所の畑のブレンドで平均樹齢は 30 年程と若い。 栽培、醸造に関しては全く同じ。違いは畑のみ。収穫は 20kg ずつ手摘みされ、除梗。5 度で 15 時間コールドマセラシオン。優しくプレスし、20 度以下で 1 ヶ月間発酵が続けられる。


グレコとコーダ・ディ・ヴォルペ

グレコ・ドゥエ・キッキ 「サン・パオロ・ディ・トゥーフォ」の硫黄質はワインにミネラルを与えるので非常に硬質に仕上がる。 ガストロノミーでは重宝されるが、彼等の普段の食事には相性が良くない。

『この地域のグレコは硬過ぎるのでフルーティーなコーダ・ディ・ヴォルペをブレンドするのが伝統』

ドゥエ・キッキは 2 つの粒を意味する。コーダ・ディ・ヴォルペをブレンドした地元消費用ワイン。

『コーダ・ディ・ヴォルペは酸度が低く、糖度が高い。 ボリューム感とフレッシュ感をワインに与えてくれるので、昔はグレコより重宝された』