クロ・デ・ブート
●カリニャンこそがコスティエール・ド・ニーム最適品種●
ニームは理想的な環境
『1986 年に作られた新しいAOC コスティエール・ド・ニーム。紀元前からワイン造りが行われてきた歴史ある産地だけにポテンシャルは高い』
ラングドック・ルーションの2/3 が協同組合による低価格ワイン。ほとんどがグルナッシュやシラーで造られた重く濃厚なもので単調。そのラングドックの東端、ローヌに程近いコスティエール・ド・ニームでカリニャンを中心にワイン造りを始めたのが「クロ・デ・ブート」。
『コスティエール・ド・ニームのワインはラングドックと言うよりもローヌの個性に近い。カリニャンならフレッシュで重過ぎないワインが造れる』
大学で農学を学んだ後、醸造学を学び、モレ・サン・ドゥニ、サンテミリオンで経験を積んだ後、ニームで5年間働いて経験を積んだ。
『2002年、ニームの南ベルガルドに10haの1枚畑を購入。状態は最高ではなかったが、高樹齢のカリニャンが気に入った』
当主はシルヴァン・ブート。ベルギー国境付近の村の出身で両親はワイン関係の仕事をしており、お爺さんは農家で小さい頃から農業と関ってきた。
『南のカマルグ自然公園からの海風の影響を受けるので夜間の気温は劇的に下がる。この寒暖差がカリニャンにテンションを与える』
充分な日照量と降雨量の少なさ、石を多く含む粘土質でシャトーヌッフ・デュ・パプと同じ土壌を持っているのがニーム。葡萄樹にとって理想的。
『ニームは葡萄にとって良い環境だったので樹勢の強いカリニャンは収量を増やして組合に売られていた。低品質なワインばかりだった』
INAO の主導でグルナッシュやシラーが増えたが多産性のクローンが多いのが問題だが、少しずつ品質重視の造り手が増えてきている。
ビオディナミと羊
イタリアでローマ教皇に献上されたワインが入れられたアンフォラが出土したが、それはボークール(ニームの西)産のものだった。
『紀元前からワイン造りが行われてきたのには理由があるはず。葡萄樹にとって理想的な環境を取り戻す必要があった』
購入した畑は農薬が使われていて弱っていた。本来のテロワールを失っている状態。シルヴァンの最初の仕事はビオディナミの導入となった。
『10haの広い畑だが1枚畑で周囲が森なのでビオディナミが導入しやすかった。土壌を活性化し、有機物を増やすことが最優先だった』
3 年で土壌は本来のポテンシャルを取り戻し、ミミズや虫、30 種以上の植物が自生するようになり、鳥などの動物も戻ってきた。
『現在、畑では一切の農薬は使われず、除草剤も使用しないので、安心して食用のニワトリと羊を放し飼いすることができる』
復活したテロワールで育つ葡萄は土地の個性を持つので飾る必要はない。そのままの個性をワインに移していく事が造り手の仕事。
南仏のピノ・ノワール
コスティエール・ド・ニームはグルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、クレレット等9 品種が栽培できる珍しい産地。その中でシルヴァンが最も愛している品種がカリニャン。
『暑いニームで重過ぎず、フレッシュなワインを造る為にはカリニャンが必要。シラーとアッサンブラージュしてもカリニャンが背骨になる』
凝縮した重いワインが好まれる時代に、歴史的にニームで栽培されてきたカリニャンはグルナッシュやシラーに植え替えられていった。
『カリニャンこそがコスティエール・ド・ニームでフレッシュさを残しテンションのあるワインを造ることができる唯一の重要な品種だと気付くべき』
僕等は高い糖度と高いアルコールは全く必要としていない。収量を抑えたカリニャンは遅く熟すので酸度を残しながら完熟できる。
『カリニャンは土地と気候を表現できる繊細な品種でもある。南仏のピノ・ノワールみたいな性格で多彩な表現力を持っている』
また、シラーやグルナッシュとの相性も良く、アッサンブラージュすることで果実や甘味主体のワインを引き締めて立体的にしてくれる。
『カリニャンはウドンコ病やカビに弱いので房を減らし通気性を確保する事。毎日畑に出て早い対処をすることが重要なので大手にはできない』
放っておけばシラーの3 倍もの収穫ができてしまう程樹勢が強いカリニャン。それだけに品質の低いワインも多く存在するので注意が必要。
『突然変異が多いのもカリニャンの特徴。珍しいカリニャン・ブランも少しだけ所有していて100%カリニャン・ブランを造っている』
カリニャンに魅せられたカリニャンのスペシャリスト「クロ・デ・ブート」。コスティエール・ド・ニームのこれからを予見しているかのよう。