デナーヴォロ
●『ラ・ストッパではできないこと』に挑戦●
密閉タンクで長期マセラシオンすることで嫌気的環境になるが、それこそがワインにシリアスさを与えてくれる。ラ・ ストッパの完成された味わいとは別の魅力。ジュリオ・アルマーニ
『デナーヴォロは悪魔を意味する。悪魔と名付けたのは通常のワインとは全く違うワインだという意味を込めている』
「ラ・ストッパ」で 30 年以上に渡って栽培・醸造を手掛けている「ジュリオ・アルマーニ」。彼が「ラ・ストッパ」の名声を高めたと言っても過言ではない。地品種を使った伝統的なワイン造りで知られる「ラ・ ストッパ」。造られるワインは勿論、赤が中心でこの地の伝統的なワインに限られる。
『ラ・ストッパではある程度の生産量をキープしながら伝統とスタイルを継承しなければいけない』
「ラ・ストッパ」は大人の味わいを持った完成されたワインであるべき。しかし、ジュリオは醸造家としての挑戦がしたくなっていく。そして、ピアツェンツァの「トラヴォ」地区に葡萄畑を購入。白品種マルヴァジア、オルトゥルゴ、マルサンヌ を植樹し、ワイン造りを開始。最初の3 年は「ラ・ストッパ」で醸造、熟成していた。
『元々農学の専門家。ラ・ストッパでも元々醸造家ではなく、栽培責任者だった。毎年、醸造を体感し、学び、醸造に興味を持った』
彼を慕う人は多い。「ラ・ストッパ」を間借りして醸造・ 熟成している「アルベルト・アングイソッラ」もその1人。「ダリオ・プリンチッチ」「ルカ・ロアーニャ」や「エリザベッタ・フォラドーリ」も「ジュリオ」のファン。 「ラ・ストッパ」当主の「エレナ」とは 30 年以上の付き合い。そして奥さんはブルネッロの造り手「イル・コッレ」姉妹の妹。優しく穏やかな人柄。
リスクをとった攻めの醸造
「ラ・ストッパ」でも「ジュリオ」はワイン造りの全権を任されているが、規模も大きいので極限まで攻めたワイン造りはできない。『全てのワインがヴィネガーになってしまうかもしれないリスクはラ・ストッパではとるべきじゃない。デナーヴォロではリスクをとれる』
ワイン造りはどこまでリスクをとるかが「ラ・ストッパ」と 「デナーヴォロ」の差。30 年「ラ・ストッパ」で働いた「ジュリオ」が理想を追ってリスクをとったのが「デナーヴォロ」。
『雨に悩まされた 2013 年、カタヴェラは水ぶくれした葡萄も全部使った。アルコールは 11%までしか上がらなかったが飲み心地の良いワインができあがっ た。ヴィンテージそのもの』
「マッキオーナ」のような偉大なワインはなかなか出てこない。しかし、2006 年のように全てが揃った年 の「デナーヴォロ」には本当に驚かされる。
嫌気的環境で長期マセラシオン
ヴィンテージによるが 30~100 日間果皮、種子ごとタンクの中で漬け込んでいる。『長期マセラシオンとしては珍しくステンレスタンクで発酵、熟成させる。嫌気的な環境が還元状態を作りだし、これがワインに厳しさを与える』
長期のマセラシオンは危険も多い。最終的に要素が抽出されきった果帽は水分が残る。この部分はアルコールが少ないので酢酸が発生しやすい。
『果帽ごと取り除くのが常識だが、僕は最後に混ぜ込んでから果帽を引き上げる。ある程度の酢酸や揮発酸はワインに個性を与えると思う』
同じ醸造家が長期マセラシオンを施した「ラ・ストッパ」の「アジェーノ」とは大きな違いがある。
『アジェーノには揮発的な要素は全く存在しない。果実由来の紅茶やオレンジ、マンゴーの風味は葡萄由来。デナーヴォロはもっとシリアス』
畑は極力負担をかけない最小限の栽培を心がけている。特に葡萄樹を含めた畑の生態系本来のバランスを崩さないことに気を使っている。その為、「ラ・ストッパ」同様、下草を生やしたまま(不耕起)で栄養分が足りなさそうに見えても簡単に施肥しない。 樹齢が高くなれば自然と収量は減る。よって芽かきや摘果も必要ない。収穫の時期さえ的確なら凝縮した葡萄を得ることができると考えている。畑ではボルドー液以外の一切の農薬、除草剤、防カビ剤などを用いず、徹底した自然農法を実践。醸造時も酸化防止剤をはじめ、いかなる添加物も使用しない。