フランシス・ブラール

シャンパーニュでは珍しい100%ビオディナミ

若い造り手ながらフランス国内では入手困難なシャンパーニュ
北東斜面の畑は遅い収穫でも酸度を失わないのでワイン的な美味しさ


❖ブノワ・ライエやマルゲに学ぶ

『2009年に設立された新しい造り手、フランシス・ブラール。6世代続いた老舗、レイモン・ブラールからフランシスが抜けて独立した小さな造り手』
レイモン・ブラールは兄弟で営まれていた普通のシャンパーニュの造り手。70年代のフランスは農業の効率化の為、政府主導で農薬、除草剤、防虫剤が推進されていた時代でした。
『1996年、農薬が10年以上も土壌に残存し、生態系を崩している事を知り困惑。ルドルフ・シュタイナー理論を知り、ビオディナミについて学び始めます』
兄弟や親はビオディナミには反対なので、30ha中の1haのみ無農薬での栽培を開始し、経過を観察。3年連続で無農薬の葡萄から造ったワインの表現力の高さに気付きます。
『それでも兄弟は反対。病気には手作業で対処するので畑仕事は3倍に増え、病気の影響で収量は減るのだから、あの時代にビオディナミを理解する事は不可能だった』
2009年、兄弟と決別し、フランシスは奥さん、娘、デルフィーヌと共に3.3haの畑を買い取り、フランシス・ブラールとして独立。全ての畑をビオディナミに転換していきます。
『ブノワ・ライエやマルゲに学び、彼等が助けてくれて畑をビオディナミに変更。娘のデルフィーヌが葡萄畑を担当し、2012年には全ての畑の転換が終了した』
いまだにビオディナミの畑はシャンパーニュでは希少。ヴァレ・ド・ラ・マルヌの400haの畑の内3.2haが有機認証を得ているが、その内1.2haがフランシスの畑と言うから驚きです。
『シャンパーニュの全ての畑の内、僅か1%以下が有機認定された畑。それだけ、シャンパーニュでビオディナミは難しく、できたとしても続けていく事も難しい』
ビオディナミ調剤と極少量の堆肥のみで管理された畑には残存農薬はほぼ無い状態。収穫される葡萄からも、勿論ワインからも有害な物質は一切検知されません。
『2010年にシャンパーニュで制定された法律のお陰で、有機認証を受けた畑の周囲120mは農薬散布のヘリコプターも飛ぶ事が禁止されている』
2016年にフランシスは引退。現在は娘、デルフィーヌと夫によって運営されていて、ファブロル・エ・コエミに移転。畑にも近くなり、評価を高めています。
『2001年から一切の化学薬品は不使用。除草剤、ホルモン剤も使用しない。周囲には森を残し、生物多様性を守る。2004年からはエコセールに認定された』


❖ビオディナミで救われた

所有畑は3ヶ所に分かれます。モンターニュ・ド・ランスのサン・ティエリーに1.6ha、マイィ(Gクリュ)に0.5ha。更に家族の起源である畑をヴァレ・ド・ラ・マルヌに1.2ha所有。
『チョーク質の強いマイィ。粘土が強く太陽の影響を強く受けるヴァレ・ド・ラ・マルヌにはムニエ。サン・ティエリーはシャンパーニュ最北の畑で粘土石灰に砂質が混じる』
ほぼ全ての畑は南向きではなく、温暖化でも葡萄が焼けたり、酸度を失わない、冷涼な北東向き斜面にあります。フランシスは常に冷涼な区画の葡萄が好きでした。
『畑は年に2回耕すが、そのタイミングは月が決める。ひいお爺さんがフランシスに言っていた事がビオディナミで証明されているのが驚きだったし、先人の知恵の意味を知った』
畑はマッサルセレクションで各畑のクローンが残されています。仕立は畑毎に色々ですが、出来るだけ小さく仕立て、雹が通り過ぎた後にグリーンハーヴェストで収量を調整します。
『下草は必要です。土壌が流れ落ちるのを防ぎ、水分の蒸発を防ぎ、朝露を土壌に供給し、微生物の数を増やしてくれる。自然が勝手にバランスをとるのです』
500番調剤は雌牛の角に詰めた牛糞を熟成させたものですが、土壌中の微生物を活性化する。501番調剤は雌牛の角に詰めた珪石(シリカ)を熟成させたもの。
『500番調剤は土壌を活性化する事で葡萄と土壌の繋がりを強める。501番調剤は葡萄樹の光合成を促進し、太陽と葡萄樹の繋がりを強めてくれる』


❖完熟が重要

ビオディナミの効果は大きく、葡萄は成熟すると圧倒的な表現力を持つように変化しました。これを受けてデルフィーヌは、より完熟を求めるようになっています。
『収穫は他の造り手よりも2週間程度遅い。出来る限り完熟させる事でシャンパーニュはワイン的で旨味を得る。重くないのに旨味、深みがあるのが特徴』
潜在アルコール度数が12%になるまで収穫を待つ。通常の生産者は潜在アルコール度数が10%程度で早く収穫するのと比べると大きく違うのです。
『ピノ・ノワールのクローンは41Bと3309の2種をマッサルセレクション。シャルドネはSO4を主体にしてワイン的で酸度の高いワインを目指している』
プレスは伝統的コカールではなく空気圧のソフトプレスでデリケートに繊細で雑味のないモストを得ます。ビオディナミのお陰で野生酵母のみで自然と発酵が始まります。
『醗酵はパーセル毎に分けて、大樽、バリック、トノーと色々な樽で行います。僅かな参加を経験しながら、樽毎に異なる熟成をすることが大切』
醗酵終了後は、1度移し替えてから樽熟成。最初の3ヶ月間は10日に1回程度の割合で軽いバトナージュをしてワインに骨格を与えていきます。
『酸度を失わない北東斜面なので完熟まで収穫を待つ事ができる。潜在アルコール度数12%を超える完熟した葡萄を糖分を足さずに発酵させるのでワイン的な旨味を得る事が出来る』