フレデリック・マニャン

ジャー(アンフォラ)熟成、全房醗酵でブルゴーニュの古典へ

重厚なイメージだったフレデリック・マニャンは昔の話です
色調は薄く、ナチュラルで軽やか、繊細なブルゴーニュに回帰


❖全房醗酵

2012年、ベタンヌ・ドゥソーヴでネゴシアンとして最高評価のBDマークを4つを獲得。一流ドメーヌ以上の評価を獲得。ブルゴーニュの造り手の間でも大きなニュースになりました。
『フレデリック・マニャンは変わった。他のネゴシアンと区別すべき。難しい2008を上品に仕上げ、2009でそれが本物である事を証明した』/ベタンヌ・ドゥソーヴ
ジャック・ディヴォージュ(ドメーヌ・アルローに移籍)が醸造責任者だった頃は抽出が強く、重厚なスタイルでしたが、2005年からフレデリックが醸造責任者に就任し変わります。2000年以前のフレデリック・マニャンは抽出が強く、ノン・フィルターで重厚。フランソワ・フレールの新樽を使い、新樽比率も50~80%と高く、現代的なスタイルでした。
『2005年からは発酵中、果皮を動かさず抽出を抑え、より畑の個性を表現できるように。ルロワの栽培責任者が加入し、畑ではビオディナミの導入を開始した』
この頃は、まだ全除梗でマセラシオンも長く、激しいバトナージュにより強いワインに仕上げていた。ワインは畑の個性より造り手の個性が強かったとフレデリック。2007年、フレデリックが信頼するテイスターに「赤ワインより白ワインの方が表現力を持っている」と言われたことにショックを受け、醸造の見直しを進める事を決意します。
『収穫時期を早め、全房の比率を高め、マセラシオンも短く、バトナージュも控えめに変更。2017年からは60%以上、全房を使って醗酵するように』
全房での醗酵は酵素と茎の間の酸素の存在で発酵をスムーズに進めてくれる。茎からの少しの水分を得てアルコール度数も少し下がることも軽さを演出しています。
『果皮を刺激せず醗酵。各畑の個性を覆い隠さないよう新樽比率は0%。アンフォラ熟成も導入され、造り手の個性より畑の個性が感じ取られるワインに変わった』
2012年、誕生日にお爺さんが造った1923年のワインを飲んで驚きます。100年経っても土地の味。ブルゴーニュワインである事がはっきり感じられたのです。モレ・サン・ドニですが、どこの畑かは解りません。当時は酸化防止剤も無く、農薬も無い。醸造技術も未熟だったのにモレ・サン・ドニの味がしたのです。これこそがテロワールだと確信。
『畑の個性(テロワール)を強める為に着手したのがビオディナミ。ルロワにビオディナミを導入した栽培責任者を招き入れ、2010年から転換を始めた』
ルロワ同様に新梢を切らず自由に伸ばし上部に巻き付け、植物の生命力を尊重(普通は新梢を切る事で成長を止め栄養素を果実に向かわせる)。
『新梢を切った傷がストレスになり、健全さを失う。新梢が伸びれば葉数も増え光合成も活発化。それが自然な成長。人為的に凝縮させる必要はない。


❖ドメーヌワインより低い醗酵温度

ドメーヌ・ミッシェル・マニャンの5代目として生まれたフレデリック。1987年からドメーヌで働き始め、1991年からカリフォルニアのカレラで働きながら世界のワインを学びます。
『その後、オーストラリアのバノックバーンでバイ・ファーと働き、大きな影響を受けた。同時にカリフォルニアやオーストラリアにはないブルゴーニュの独自性を認識する事ができた』
1993年にドメーヌに戻り、醸造学校を卒業。醸造学博士号を取得。既に独自のスタイルを確立していた父、ミッシェルの下で実際のワイン造りをスタートします。
『1995年、自分の会社、フレデリック・マニャンを設立。ネゴシアンながら1年を通して畑の全ての管理を請け負い、畑の使用料を支払う、新しいネゴシアンを始める』
栽培家から長期委託を受け、全ての畑の栽培をチームが担当し、剪定も収穫時期もフレデリックが決めているのでドメーヌの自社畑と同じよう自分の理想の葡萄に栽培できるのです。
『醸造所はドメーヌの隣の建物。天井が高く、広いので狭いドメーヌと比べて醗酵時の温度が上がらない。よってドメーヌワインよりも発酵温度が低くなっている』
発酵温度が低いので抽出が軽く、ドメーヌワインよりも繊細さを表現できます。発酵温度の高いドメーヌワインは、より濃密で力強い味わいになる傾向。


❖ジャー(アンフォラ)

今では、ほぼ全ての畑でビオディナミを導入。これによって土壌は活性化し、土地のエネルギーを高めている。同時に葡萄樹の自然と共存する能力も高めているのです。
『葡萄の根は活性化した土壌と葡萄樹との交換作業を活発化している。月の影響も受けやすくなっている。ビオディナミ調剤はその手助けをするだけ』
葡萄樹の自然と情報交換する力が高まるので、樹液が月の影響を受けるようになる。月の影響を受けている葡萄樹は本来の生育サイクルを回復した証拠なのです。
『活性化した葡萄樹と土壌、自然環境との交換作業はその年の個性やその畑の個性を表現する力を高めている事になる。テロワールを表現するとはそういうこと』
表現力を増した葡萄を、より正確にワインにする為、またワイン自体に複雑性を持たせる為に新樽を廃止。樽は特別な契約でDRCが1年使用した樽を購入し使用しています。
『DRCが重要な訳ではない。ビオディナミで何も足していない健全なワインが入っていた樽が必要で、科学的なものが入っていた形跡が恐い。DRCであれば全く問題がない』
更に、スペイン産ジャー(アンフォラ)を導入。ジョージアのように内側を蜜蝋でコーティングしていない純粋なテラコッタで熟成させる事で、より正確に畑の個性をワインに移していきます。
『ジャー熟成で酸化する事はない。熟成具合も異なり、全く違う個性のジャーと古樽を最終的にアッサンブラージュする事で、ワインに複雑性を与える事が目的』