イル・パラディソ・ディ・マンフレディ
●北斜面『魂のブルネロ・ディ・モンタルチーノ』●
『人間が考えて造り出すものなんて意味ない。天から授かった畑の葡萄を発酵させる。魂は1つしか無いのだから、 魂を込めたワインは1つしかできないはずだし、自然は人間以上のものをいつも造ってしまう』
ブルネロは北側斜面から始まった
世界的に人気が高まっている「ブルネロ・ディ・モンタ ルチーノ」。130 を超える生産者が存在する。 「イル・パラディソ・ディ・マンフレディ」はモンタルチー ノの町の北東斜面に位置する年産 750 ケース、家 族 4 人だけの小さな造り手。
『1950 年に先代がパラディソと呼ばれる畑を購入し て葡萄栽培を開始した。同じ畑、同じ家で今でもワ イン造りを続けている』
彼らは1967年に10人の造り手と共にモンタルチーノ 協会を設立。それ以降の50年間でモンタルチーノは 変わったけれど、彼等は何も変わらない。 現当主は「フローリオ」。元々は数学教師として働い ていたが奥さんの実家である「イル・パラディソ・ディ・ マンフレディ」を引き継ぐことになった。
『葡萄樹は家族のように毎日感じていなければいけ ない。葡萄樹の変化を感じなければ正しい対処はで きない。数学ではない』
2015 年家族の支えであった「フォルトゥナータ」お婆 ちゃんが亡くなった。しかし、娘の「ジョイア」が本格的 にワイン造りに参加。家族に明るさが戻った。
蜂が害虫から葡萄を守ってくれる
『畑では一度も薬品が使われたことがない。使う必 要がない。自然が葡萄を育て、自然がワインを造る。 人間は手助けをするだけ』
北斜面の 2.5ha の彼等の畑は 7 つの段々畑に分か れている。畑にはネギ、ルコラ、ミント、チポッラ等が 自生。彼等の食事に使われている。
『害虫対策はその害虫の天敵である益虫を畑に放 つことで対応。除草剤も防虫剤も使わない。葡萄樹 を支える支柱さえも木製』
猪や鹿対策は石鹸。石鹸を葡萄樹に吊るしておくと、 人間の匂いと勘違いして動物達は近寄らない。 畑の表土には無数の穴。これは地中に巣を作る蜂の 巣。除草剤や殺虫剤を使っている畑では生きること ができない蜂が沢山生息している。
『葡萄は地球上で最も生命力が強い植物。下草や 昆虫は葡萄樹の生命力を高めてくれる。生命力が 宿ったワインは生きている』
樹齢は平均 30 年程度。表土付近は下草の根が多く、 水分の確保が困難なので地下 30m まで垂直に根を 伸ばしている。
『僕等のワインには海の香がある。根が昔海だった 層まで根を伸ばしているから。自然と共存してきた 古い葡萄樹の表現力は強い』
2003 年のような酷暑も彼等のワインは清涼感さえ感 じさせた。葡萄樹は地下深くの水分を手に入れ、焼 けることなくその暑さを乗り越えた。
『自然を経験して葡萄樹は強くなる。長い目で見れ ば気候の変化にも葡萄樹は対応していく。人間が 介入すると葡萄樹は逆に弱くなる』
自然は人間より偉大なものを造る
7 段の段々畑は石灰の強い白い土壌から粘土の強 い赤い土壌まで様々。この様々な土壌の葡萄を全て アッサンブラージュしてワインにしている。
『畑毎に分けてワインを造るのは人間の作為。自然 は人間の考え以上のものを造ってしまう。それに魂 を込めるのは 1 つで十分』
彼等は基本的に 1 種類のワインしか造っていない。 熟成の過程で早目に開いている樽を「ロッソ・ディ・モ ンタルチーノ」としてリリース。
『協会が発表する最良年のみブルネロの樽熟成期 間を伸ばしたリゼルヴァを造る。中身はロッソもブル ネロもリゼルヴァも同じ』
収穫は区画毎に熟度を見ながら収穫。通常の造り 手よりも 1 週間程度遅いことが多い。葡萄が種まで 熟した時がタイミング。
『収穫日はモスト計などの測定値で決めるのではな い。自分達で食べて決める。数値では解らないバラ ンスを感じて決める』
醗酵は伝統的な 20~50hl のセメントタンクで区画毎 に行う。セメントタンクに手をあて温度が上がりすぎた 時だけルモンタージュを行い温度を下げる。
『発酵後期には香が変わってくる。パンの香が出て きたら樽に移し替えるタイミング。香が変わったタン クから移し替えていく』
熟成は 10 年以上使用している古樽。ある程度ワイン が安定してきたら全てをアッサンブラージュして、更 に熟成を続ける。 瓶詰め直前に極少量の SO2 を添加するが、発酵か ら熟成に至るまでは一切無添加。 収穫からボトリングまでポンプも使わずに重力だけで ワインを移動する。ボトリングも手作業で重力を利用 して行われる。
『ワインは飲み物だが、生命力の宿った飲み物。生 きているワインを造るには魂を込めなければいけな い。ワイン造りは葡萄の生命力がワインに変わって いく手伝い』