ジャマール

 

エペルネに今も残る地酒としての懐かしいシャンパーニュ

元パン屋さんが今も造り続ける地酒的シャンパーニュ
コート・ド・シュッド・エペルネのチョーク層と南向き斜面だからこそのムニエ


❖地酒としてのシャンパーニュ

ラエルト・フレールのオーレリアン曰く、シャンパーニュが地酒だった頃を思い出させてくれる、シャンパーニュの農家的家族経営シャンパーニュがジャマールです。
『エペルネの南西にある小さな田舎町、サン・マルタン・ダブロワでパン屋を創業したジャマール家。1934年に村を助ける為に廃業した醸造設備を買い取ります』
この田舎町には醸造設備が無かったので、葡萄栽培農家は遠方まで葡萄を売りにいかなければいけなく、葡萄栽培農家は廃れつつありました。
『木製の四角い大型垂直プレス機を購入し、農家が葡萄を持ち込み圧搾し、その使用料やパンの支払いの代わりに葡萄で支払う人が多く、その葡萄でシャンパーニュを造り始めた』
今では考えられない事ですが、パンもシャンパーニュもエペルネの人にとって重要な生活必需品で、ジャマールはその両方の起点となっていて村の中心でした。
『こうしてジャマールはパン屋からワイナリーへと転身。初代創業者はパン屋だったエミリアン・ジャマールとモエ・エ・シャンドンのカヴィストだった義父のアルバート・ムーツ』
今も現役で使用されている四角い垂直プレスは現在の円形の垂直プレス、コカールの原型と言われる骨董品。シャンパーニュでもジャマールにしか残っていない歴史的プレス機です。
『当時は円形を造る技術がなく、四角いプレスが一般的でしたが、現在では均等に圧がかかる円形に進化した。四角いプレスはムラがあり、それが魅力なのです』
ジャマールでは今も四角いプレス機で6時間かけてゆっくりプレス。途中何度もスコップで葡萄の位置を修正しながら、葡萄全体に均等に圧がかかるように調整します。
『コカール以前の四角いプレスは使いこなすのに技術が必要。コカールと違い、ムラがあるので中心部の少し強い圧がかかったジュースと端の極々優しいジュースが混在する』
プレス機は個々の農家では買う事が難しかったので、非常に喜ばれ、ジャマールは徐々に葡萄畑を購入、買い足していき、現在4.6haの葡萄畑まで拡大します。


❖チョーク層のムニエ
現当主はマキシム・ウダール。醸造学校にも通わず、父親から相続した畑で父親の教えの通りに、ジャマールの地酒としてのシャンパーニュ造りを続けています。
『醸造コンサルタントはジャマールの歴史も、畑の状態も知らない。それではジャマールの味わいは守れない偉大なシャンパーニュではなくていい。素直に美味しい事が大切』
所有畑は全てエペルネの南西部、コート・ド・シュッド・エペルネにあります。75%がチョーク質で薄い泥灰土が覆いかぶさっているコート・デ・ブランに近い土壌。
『チョーク層は多孔質なので保水性が高く、1㎡あたり300~400リットルも保水する。乾燥の激しい年でも十分な水分量を確保してくれる』
ムニエが育つ最も大きな畑では地下30mまでチョーク層が続いています。ムニエは粘土質に植えられる事が多いですが、ジャマールではチョーク層に植樹しています。
『白亜紀後期のチョーク層なので1億~6,500年前に生物の死骸が海底に堆積、押し潰された土壌。ランス周辺の柔らかいチョーク層とは異なり、圧縮され硬い』
ヴァレ・ド・ラ・マルヌの粘土質に育つムニエとは異なり、チョーク質で育つムニエはミネラル感が強く、果実感は少ない。垂直性があり、酸度も高いのが特徴的。
『冷涼な気候を好むシャルドネを斜面上部に植え、湿気によるカビに強いムニエを下部に植えるのがこの地域の伝統的栽培方法。今も、それは変わりません』
コート・デ・ブランとは違い南向きなので日照量が多く、ワインは柔らかさを得ます。収斂味や厳しさよりも、柔らかいアタックと繊細な酸のバランスが特徴です。
『ムニエが最重要。50%以上がムニエでシャルドネ40%、ピノ・ノワール10%を栽培している。特にムニエは1930年代に植樹された畑なので樹齢は80年を超える』

❖少ないドサージュ
ムニエのフレッシュな果実とチョーク質のミネラルが主体で、太陽の柔らかさがあるので、低価格のカルト・ブランシュでもドサージュは少なく、リキュールの甘さを感じないのが嬉しい。
『各造り手のベース・シャンパーニュは若い葡萄を使い、少し痩せたワインにドサージュを強めにする傾向があるが、ジャマールでは古樹を使うのでドサージュは最低限で良い』
リキュールの味わいが強く出ているシャンパーニュはテロワールを軽視している。ドサージュは全体のバランスをとる為に最低限使われるべきという考え方。醗酵は昔から使っているガラスコーティングされていないセメントタンクと足りない分はエナメルタンクを使って醗酵。基本的にマロラクティック発酵を行う。
『若い内から美味しい状態にしたいのでマロラクティックは必要と考えている。ノン・マロでは硬過ぎてムニエのフレッシュな果実が素直に感じられない』
デゴルジュマンは全て手作業なので1日2,000本が限界。その都度、ワインの状態を見ながらドサージュ量を変えていきます。平均5~7g/L。
『リキュールの味がしてはいけない。ムニエの赤系果実とチョーク質のミネラル。太陽の柔らかく豊満な味わいがこの地域の伝統的シャンパーニュなのです』