ラ・ミション・リミタダ
●チリの伝統のワイン造りを自然醸造で昇華●
流行の「ピペーニョワイン」(農民のワインの意味で飲みやすくイージーなスタイル)ではなく、葡萄の本来のエネルギー を味わえるワインを最も重要な品種パイスで造る。
病気のない葡萄の楽園
ラ・ストッパ当主「エレナ」の母親は 1999 年にチリに移住。それ以来、エレナも毎年遊びに行っていたので随分前からチリに興味を持っていた。
『チリの自然環境はイタリアより優れている。葡萄栽培の優位性、病気も少ない。今も残る伝統的ワイン造りに惹かれていった』
エレナの母親はマウレ渓谷の南に葡萄畑と小さな醸造所を購入。自然農法での葡萄栽培を始め、収穫した葡萄は生産者へ販売していた。 2015 年、エレナは友人である「ニコラ・マッサ」と協 力してチリの葡萄畑と廃れたワイナリーを購入。ラ・ミ ション・リミタダを設立する。
『畑探しは、マルセル・ラピエールの下で働き、チリで ナチュラルワイン造りを始めたルイ・アントワンヌ・リュイットが主導してくれた』
こうして樹齢 100~150 年の自根の畑 4ha を取得。 農薬の使用もなく、感慨もされていない自然なワイン造りにとっての理想郷を手に入れた。
『ここにはベト病、ウドンコ病もほとんどなく、エスカ (原因不明の病気)もない。フィロキセラさえない。 自然な葡萄栽培の楽園のようだ』
場所はサンチアゴの南 400km。カウケネス村に近いマウレ渓谷。周囲は手つかずの自然が残っていて樹 齢 300 年以上の葡萄樹も存在する。土壌は砂質に花崗岩が混じる層の上に酸化した赤 い粘土質が被さっている。水はけが非常に良い。海 と山に挟まれているので昼夜の寒暖差が大きい。
『畑はラ・ストッパ同様、出来る限り何も与えない自 然栽培。銅さえも使わない。硫黄は使用するが、年 によっては硫黄さえ使わない』
一方、残念な事に大手ワイナリーによる工業的ワイン造りの影響と過疎化による後継者不足で昔ながら の手作りの畑は減り続けている。 エレナは更に、トメネロ荘園を購入。90ha の敷地で 25ha を葡萄栽培にあて、残りは森を残し、野菜栽培と馬の放牧地にしている。
『チリの伝統的で自然なワイン造りを継承する事、 歴史に学ぶ事が大切だと考え、ワイナリーもチリの 伝統に習って修復された』
モルタルと藁で固めた土壁。伝統的解放発酵槽(ラ ウリ)、大樽(ラガー)、木製の除梗台(ザランダ)。全てチリ独特の醸造設備が導入された。
『ザランダはチリやジュラの一部で使われている伝統的除梗器。木の枝の網に、手で葡萄を擦り付けて 除梗する原始的なもの』
エレナの友人ニコラ・マッサ
エレナが共同経営者に選んだのは「ニコラ・マッサ」。 元ソムリエでナチュラルワインの良き理解者であり、 ワイン醸造にも精通している。 タスカ・ダルメリータ、カステロ・ディ・アマ等で働きな がらワインプロモーションを世界各国で行ってきた異色の経験の持ち主。
『2014 年はアリアンナ・オキピンティで彼女の右腕 となり、1年間一緒に働き、栽培、醸造に関して知 識を深めてきた』
ヴァン・ナチュールのサービス、プロモーション、栽培、醸造の全ての場面を経験してきた 46 歳が最後に辿り着いたのがチリでのワイン造りだった。
『チリの自然環境を活かして、エレナのワイン造りのフィロソフィを具現化していく事が重要。ジューシーなワインではなく表現力のあるワインが理想』
流行の「ピペーニョワイン」(農民のワインの意味で飲みやすくイージーなスタイル)ではなく、葡萄の本来 のエネルギーを味わえるワインが理想。
葡萄のエネルギー
2020 年より、モスカテル・デ・アレハンドリア(樹齢 80 年)の醸造も開始したが、あくまでもメインで栽培するのはパイス。
『500年前にスペインの宣教師によってチリにもたらされたチリ最初の葡萄。パイスは国を意味する事 からも如何に重要だったのかが解る』
ティント・マルカ・ピサドールには樹齢 150 年のパイス を使用。畑はコロネル・デ・マウレにある歴史上 1 度 も農薬が使用されていない畑。
『トラクターも入った事がない完全に自然な状態の畑。馬で耕作し、手で収穫。100 年前と何も変わらない農業』
重要なのは完熟のタイミング(暑くても早摘みはしない)、自然酵母での発酵。長いマセラシオン。そして 2 年以上の長い樽と瓶での熟成。
『世界中で早摘みし、アルコールを下げ、飲みやす いワインが流行っているが、興味がない。完熟した 葡萄でないと葡萄は本当の要素を持たない』
伝統的ザランダで除梗、足で優しく踏んで、自然酵母のみで解放桶発酵。温度管理はせず約 30 日の 長期マセラシオン。
『完熟した葡萄を長くマセラシオン(色々な温度変化の中で)する事で最大限に葡萄の要素をワインに 移していく』
こうしてパイスの本当の個性がワインとなる。軽くイージーなワインなんかではなく、情報量の多い、力強い味わい。これが本当のパイスなのだ。