レ・ヴィーニュ・エルベル

 

マルク・アンジェリに学び、アンジュらしい柔らかいワインを醸す

素人から始め15年の経験で女性醸造家として独り立ち
年産8,000本!栽培から醸造、ボトリング、販売までほぼ全て1人でこなす


❖素人から始まった

『オリヴィエ・クザンに出会い、ナチュラルワインに興味を持ち、更にラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエールのマルク・アンジェリの助けを得て2005年に独立』
当主はナデーシュ、ローラン夫妻で醸造は妻、ナデーシュが担当。ローランは畑の管理を担当していて、全ての畑はビオディナミが採用されています。
ナデージュは貿易関係の会社員として10年以上働き、ローランは大手協同組合で醸造の仕事をしてきました。2003年に出会い、お互いの将来を考えます。
『オリヴィエ・クザン、マルク・アンジェリのワインは美味しいだけでなく、土地の個性を表現していた。そして何より、土地を活性化し、自然を守っていたのです』
自然な栽培、醸造は長い時間、経験する事でしか習得できませんが、尊敬するドメーヌ・デュ・ヴェルジェの下で働きながら学ぶ事で、多くの事を経験していきます。
『アンジェとショレの間、ヴァル・デュ・レイヨンに位置し、畑はラ・ポワントと・ラ・リュゥ・オ・ループの2つの畑をサヴニエールとロワール川で向かい合うロシュフォールに3.2ha所有』
1920年に植樹された0.3haのシュナン・ブランを含め、カベルネ・フラン、1974年植樹のカベルネ・ソーヴィニヨン、珍しいピノ・ドニスも僅か20aだけ所有しています。
『2008年、ローランは健康上の問題でワイナリーを去る事となり、パートナーも解消。私1人だけで畑仕事、ワイン醸造まで全てを担当する事になりました』
こうして全くの素人だったナデーシュは15年目に突然ヴィニュロンとなり、自分1人だけで年産8,000本のワインを全て手作業で造っています。
『アンジュを名乗る事が可能な畑ですが、その時の葡萄の状態に合わせてベストの醸造をしていく為には何の制約もない方が良いと考え、ヴァン・ド・フランスを選びます』


❖子供達から預かっている土地

アンジュの土壌はヴォージュ山脈と共通するアルモニカ山塊の片岩、砂岩が多く含まれるのが地質学的な特徴で、ゆるやかな平野になっているので葡萄以外の作物も豊富。
『サヴニエールとは違い、黒い粘土質が多く、ロワール川に由来する砂質と片岩を多く含みます。粘土は保湿性が高いので、酷暑でも非常に良い結果を得る』
ワインはエッジの効いた力強いものではなく、アンジュらしい、ふっくらとした果実の甘味と優しさがあります。その個性を素直に表現する事で独自のスタイルを目指しているのです。
『畑選びはマルク・アンジェリが指南してくれ、シュナン・ブランの古い畑も紹介してくれた。アンジュらしいたっぷりしたシュナン・ブランは独特な世界』
2005年の創立以来、全ての畑では薬剤を一切使用していません。チョークや石英の強い土壌ではなく、肥沃で有機物が多いので葡萄は健康に育ちます。
『畑で使用するのは自家製調剤、コンポスト、葡萄樹を焼いた灰、シリカとハーブ、果実類。本当に必要な時だけボルドー液を使用するが、ほとんど使わない』
耕作はトラクターを使わず、手作業。6月までは全ての下草を伸ばし放しにして、葡萄の生育に合わせて、一部刈り込んでいく。同時に地表近くの葡萄根も切断します。
『粘土質は水分を多く保つので、葡萄根が下層に伸び難い。地表近くの根を切る事で自然と根を下層に伸ばすよう促す。より多くの層に葡萄根が伸びている状態』
ナデーシュは自分達、家族を自分達が本当に良いと思える物に囲まれて生活するべきだと考えました。ビオディナミは彼女達、家族の人生の決断だったのです。
『この畑は人から受け継いだものではありますが、私達はそうは考えていません。子供達から預かっているのです。将来、子供達に良い状態で返したいのです』


❖自然発酵

醸造所は自宅に隣接する古いプレハブ。畑の目の前にあり、最適のタイミングで収穫し、直ぐに醸造所で冷却する事ができるので酸化防止剤を使わないで済みます。
『早朝に収穫する事で葡萄果汁が5度程度の状態で醸造所に搬入。昔ながらの垂直式ダイレクトプレスを使い、人力でゆっくりプレス。ピュアな果汁を取り出す』
シュナン・ブランは酸化防止剤も使わないで5時間かけてプレスするので、モストは酸素を吸着し、コーヒーのような茶色い色調に変化。これが彼女にとって最高の状態。
『ダイレクトプレスで茶色く変色したモストは酸素を多く含んでいるので発酵槽に入れると直ぐに醗酵が始まる。醗酵が進むと酸素が使われ、モストは透明に戻っていく』
ロゼに関しては、2011年からフレッシュな香を重視し、機械式の空気圧プレスを使用し、早くプレスする事で葡萄由来の香を酸化に覆い隠されないようにしています。
『醗酵は全て野生酵母のみ。黒葡萄は種子まで熟してから収穫。酸度ではなく種子まで熟したかで判断。破砕後、果皮ごと醗酵させるが、果皮は動かさない』
出来る限り果帽を動かさない事で粗いタンニンを抽出しないで、アンジュらしい柔らかい果実感を持ち、若い内から楽に飲めるワインを目指しています。