パラッツォーネ
オルヴィエートの品質を守り続ける老舗
火山岩土壌と堆積土壌から別々のオルヴィエートを醸す
混植混醸のムスコは電力を一切使わない8,000年前のワイン造りを再現
❖堆積土壌と火山岩土壌❖
1969年、オルヴィエート郊外にあった古い建物をドゥビーニ家が購入。この建物はボニファティウス8世が巡礼者の病院として建設した歴史のあるものでした。
『ロッカ・リペセナの丘の、25haに葡萄を植樹。葡萄栽培農家としてパラッツォーネの歴史が始まった。1982年、現当主ジョヴァンニによって初めてワインが造られます』
今ではカンティーナに隣接してレストランと宿泊施設もオープン。ドゥビーニ家の家族経営が今も続けられ、オルヴィエートを代表する造り手に成長しました。
『葡萄畑は丘の東向き斜面の標高200mから350mに位置し、海に由来する沖積層の粘土石灰土壌と火山の噴火による火山岩土壌の2つの土壌を有している』
オルヴィエートは37年前に火山が爆発して出来たボルセーナ湖(西側)とパーリャ川(東側)に挟まれた産地で7つの村で構成されています。
『海底が隆起して出来た土地なので海の堆積物を含む沖積層の粘土質土壌が主体だが、ロッカ・リペセナの上部は火山の噴火による火山岩土壌が残っている』
彼等の畑の下部はテッレ・ヴィナーテに使われる畑で粘土質。丘の上部の単一畑、カンポ・デル・ガルディアーノは火山岩土壌。ワインは全く違う個性を持っています。
『内陸なので海の影響を全く受けず、冷涼。更に、全ての畑は東向きで強い西日を受けない。温暖化の影響が少なく、酸度の高いワインになっている』
丘の1番下の畑はパーリャ川に近く、湿気が多いので貴腐菌が繁殖できる。その為、オルヴィエートはイタリアで唯一、ムッファ・ノービレと名乗る事が許されています。
『ムッファ・ノービレには早熟の品種でないといけないので丘の下部にはソーヴィニヨン・ブランとグレケットを植樹。早く成熟した果皮に貴腐菌が着き、11月まで待って収穫』
❖4品種アッサンブラージュ❖
オルヴィエート・クラシコに使われる品種はプロカニコ、グレケット、ヴェルデホ、マルヴァジアの4種。伝統的には混植されていたが、今は別々に栽培、別々に醗酵しています。
『世界的に見ても4品種アッサンブラージュというのは珍しい。個性の異なる品種をブレンドする事でワインの味わいは均衡がとれ、丸く成熟したものになる』
■プロカニコ(50%ブレンド)
トレビアーノ・トスカーナがオルヴィエートで変化していった品種で、ほぼトレビアーノと同種。成熟すると果皮がピンク色になる。果皮は中程度の厚さで病気に強い。
『50%使われる主要品種でワインの背骨となり、塩っぽいミネラルを与えてくれる大切な存在。酸度が高く、適度な果実感も持っている』
■グレケット(30%ブレンド)
ウンブリアを代表する白品種として単一でも醸造されています。最も早熟な品種なので秋の雨に悩まされる事もない。果皮が厚いのでムッファ・ノービレにも使われます。
『果房が大きく、果皮が厚いので病気にも強い。ワインにボディ感を与えると同時にストラクチャーも与えてくれる。少しの苦み、タンニンもあるのでワインに立体感を与える』
■ヴェルデホ(10%ブレンド)
ウンブリア原産の土着品種で補助品種として使われ、単独でワインになる事は、ほぼありません。うどんこ病と灰色かび病に非常に感染しやすいので栽培面積は減っています。
『果皮が緑色なのでヴェルデ=緑という名前。栽培が難しいので今では珍しい品種になってしまった。美しい酸味を持っているのでフレッシュさと余韻を与えてくれる』
■マルヴァジア(10%ブレンド)
ギリシャから伝わった品種だがウンブリアで独自に進化しました。果房は中程度よりやや大きめで円錐形。樹勢が強く、病気にも強いのでウンブリア全土で栽培されます。
『黄色がかった色調。マスカット系の華やかな香が強いので、少量のブレンドでもワインに華やかさ、果実感。そして少しの田舎っぽい雰囲気を与える』
❖古代のワイン造り、ムスコ❖
今では各品種を別々に栽培、醸造していますが、30年前のオルヴィエートは色々な品種を1つの畑に混植し、一緒に収穫、一緒に発酵させていました。
『オルヴィエートで昔から伝統的に行われてきた混植混醸造には意味があったはず。オルヴィエートの伝統と昔ながらのワイン造りに回帰するべき』
ジョヴァンニは丘の上部の小さな区画にプロカニコ、ヴェルデホ、マルヴァジアを混植。全ての品種を一緒に収穫し、一緒に発酵させた昔のオルヴィエートを復活させました。
『ムスコはこの地域の伝統を再現したワイン。混植混醸だけでなく、昔のワイン造りを徹底的に再現。一切の電力もテクノロジーも使用しない特別なワイン』
収穫後、エトルリア人のお墓だった洞窟に運び、栗の木の開放醗酵桶の中で、足で葡萄を踏んで発酵開始。10日間マセラシオンしながら醗酵。
『醗酵後、ポンプを使わず、重力でワインを栗の木樽に移して1年熟成。その後、ダミジャーナ(ガラス瓶)で8ヶ月間熟成させてから手作業でボトリング』
オルヴィエートではオーク樽は高価過ぎて買えなかったので伝統的に栗の木樽が使われていました。ダミジャーナは当時の人にとって生活の一部とも言える身近なものです。
『一切、電力を使わない8,000年前と同じナチュラルなワイン造り。自然派ワインを造りたかった訳ではなく、昔のオルヴィエートに立ち戻る事が目的』
ムスコは一切の温度管理もせず、天然の洞窟の中で発酵、熟成されます。夏の温度変化を体験する事でワインは自然と柔らかく、開いていきます。