サルヴェッタ

 

一度は絶滅したノジオラの伝統ワイン


唯一ノジオラのヴィノ・サント造りが認められているサルケ村
ここに存在したカンティーナ・ラウテンの息子がサルヴェッタとして復活


❖ノジオラのヴィノ・サント

トレンティーノの中心、トレント。フェラーリ社の本拠地だけにフェラーリ一色の町から西に山を2つ超えた町、サルケ。断崖絶壁の隙間に小さな集落が残っています。
『サルケ村こそがノジオラ発祥の村と言われていて、今でもノジオラからヴィノ・サントを造る事が許されている唯一の村。残念ながらノジオラのヴィン・サントは2軒しか造っていない』
1500年代からワイン造りで栄えたサルケ村。この地の協同組合であったカンティーナ・ラウテンは、当時、海外でも人気でフランスにも輸出されるほどでした。
『1883年にはアムステルダムで賞を受賞。フランス、イギリス、オーストリアにも輸出されるほど人気で高品質のノジオラとして多くの文献に記されている』
1930年代に入ると、量産された安価なワインに押され、ラウテンは苦難の時代を迎え、ダリオ・サルヴェッタが相続。その後、息子、ジャンカルロの代まで存続します。
『父、ジャンカルロは解散を決意。畑は4人の子供に分割され、3人はシャルドネを植え、フェラーリへ葡萄を販売する事にした。こうしてサルケ村のワイン造りは途絶えた』
2000年に入り、税理士として働いていたフランチェスコは父、ジャンカルロ、叔父、フランコと共にラウテンを修復。サルヴェッタとしてワイン造りを再開させました。
『伝統的ノジオラのマセラシオンとヴィノ・サントはラウテンの消滅後、完全に無くなった。伝統を知る唯一の職人が父、ジャンカルロ。この伝統を残すために再開した』
今では造り手は10軒に増え、僅か2軒だがノジオラのヴィノ・サントも復活。フォラドーリもノジオラの長期マセラシオンしたワインを造り始めるなど活性化しています。
『エリザベッタ・フォラドーリにマセラシオンを指導したのがジャンカルロ。フォラドーリのノジオラは、より赤ワイン的で力強く、サルヴェッタは、より白ワイン的でエレガント』
当主、フランチェスコとフォラドーリのエリザベッタは高校の同級生。その関係でフォラドーリの税理士でもある。今でもサルヴェッタのワインはフォラドーリで醸造、熟成されています。


❖黒葡萄に近いノジオラ

トレンティーノは第2次世界大戦後からドイツ文化が流入し、言語も生活習慣も、そしてワイン造りもドイツ流が奨励され、独自のワイン造りは廃れてしまいます。
『ドイツ流の低温発酵でのフレッシュな白ワインは大量に造れるので安価である事もあり、人気を博し、ノジオラの長期マセラシオンは人気を失ってしまう』
ノジオラの繊細な風味はノン・マセラシオンでも充分に個性を発揮し、ノジオラ自体は無くならずに済みます。それどころか土着品種として注目される事になりました。
『ノジオラは遺伝子学的に見ると黒葡萄に近い。果皮とその周辺にある養分が多くあるので、果皮を漬け込む事で旨味を得て、骨格を得る事ができる』
サルヴェッタでは収穫後、軽く破砕して7日間程度マセラシオンしながら発酵。果皮を取り出し、澱と共に伝統的アカシア樽に入れて12ヶ月以上熟成。
『フォラドーリはアンフォラを使い30日間マセラシオンして、より強く抽出して力強さを強調している。サルヴェッタは、より昔ながらのスタイル。マセラシオンでワインの芯を作るイメージ』
マセラシオンをする事でタンニンやアントシアニンを得る事ができる。これは抗酸化作用があるのでワインは5年以上熟成する力を得ているのです。
『アカシア樽で澱と翌春まで接触させておき、還元的な状態をキープ。アカシア樽の蜂蜜のようなやさしい甘味のある香は昔からノジオラと相性が良いとされ伝統でした』
ヴィノ・サントは今でもジャンカルロが担当。フォラドーリではなく、サルヴェッタで醸造します。乾燥機を使わず、カンティーナ2階の部屋の窓を開放して自然風で乾燥。
『野生酵母のみでマードレを足した樽の中で、ゆっくり発酵。発酵は自然に任せるので3年以上続き、自然と終わるまで待つ。熟成は5年以上という伝統的醸造』


❖山とガルダ湖

畑は非常に珍しいテロワール。畑の隣にはガルダ湖まで続くサルケ川が流れ、反対側はトレンティーノで一番高いダイン山に挟まれていて、ガルダ湖からの風が吹き抜けます。
『土壌はサルケ川が運んだ堆積物が主体で砂質にアルプスから来たミネラル豊かな小石が混じる。表土から5mは砂質でその下に岩盤と粘土があり、そこに水分が蓄積する』
水はけの良い砂質に少しの粘土が混じる。砂質は日照量が少ないサルケでも葡萄樹を根から温め、完熟させる。川に近いプロットでは貴腐も発生するという特殊な地域。
『気候は地中海性気候。盆地なので暖かく、パインやオリーブの木も育つ。冬はガルダ湖からの温かい風、夏はダイン山からの冷たい風があり、1年中、空気が動いている』
日照量が多いと早く酸度が落ち中庸なワインになり、寒すぎると完熟できない神経質なノジオラにとって最適な環境がサルケ。だから、この地でノジオラは根差したのです。
『この畑のノジオラはゆっくり成熟する。シャルドネは9月第1週に収穫するが、ノジオラの収穫は9月最終週。黒葡萄と同じようなタイミングで収穫するべき』
2009年からビオディナミを導入し、仕立てはペルゴラからグイヨに変更。より収量を抑え、凝縮した葡萄を得る為。また、より風通しを良くする事で病気のリスクを減らしています。