テラッツェ・シンギエ

絶滅危惧品種ルマッシーナの復活

リグーリア、サボナ地区の3つの丘にしか残っていないルマッシーナの個性を残す為
山奥に残された100年前の畑を修復してルマッシーナの理想郷を作る


❖リグーリアの独自性

急斜面に石垣を組んで作られた段々畑は生産効率が悪い上、交通の便も悪く、徐々に葡萄畑は耕作放棄され、希少な土着品種も消えていきます。

『外国に住んでみて初めて地元の独特な土着品種やワイン文化の素晴らしさが理解できたのです。この地の個性や伝統を次世代に残していく事を決めました』
2017年、フリウリ出身のサラ・ポーロとリグーリア出身のマウロ・ミリアヴァッカによって人口5,000人のカルカレ村の廃墟にテラッツァ・シンギエが設立されました。
『大学卒業後、ニュージーランドに1年滞在。自然に関われると考え、ワイナリーで働き始めます。そこではビオディナミが実践され、自然環境を守っていたのです』
大学で植物学を学んだマウロは自然環境に負荷をかけない農業に興味を持ち、帰国後はトスカーナ、シチリアのビオディナミ・ワイナリーで経験を積んでいきました。
カンティーナは長く空き家だった建物を改築し、1階部分を醸造所にして、2階に住んでいます。醸造所は6畳程度でポンプさえも使いません。必要最低限の設備。
『畑はフランス国境に近い人口600人の村、オルコ・フェリーノの山奥。標高300mにある耕作放棄された畑を購入。四方を森に囲まれた理想の環境』
20km北上するとバローロがありますが、オルコ・フェリーノには、ここにしかない土着品種とここにしかないテロワール、自然環境があります。バローロにも負けない独自性があるのです。


❖ルマッシーナ種

彼等が復活させている希少品種がルマッシーナ種。リグーリアでもサボナ地区の3つの丘のみでしか栽培されていない品種でこの品種単独でワインを造る事は非常に稀です。
『果皮が薄く、病気に弱いので栽培が困難なのがルマッシーナ。ボスコやヴェルメンティーノに繊細さを与える為の補助品種として使われる事がほとんど』
14世紀から栽培されていたルマッシーナは、今ではサボナ地区の山中にしか残っていませんが、火打石や白い花のアロマがあり昔は重宝されていました。これこそがリグーリアなのです。
『カタツムリを意味するルマッシーナ。カタツムリの伝統料理と相性が良いからとも言われますが、カタツムリのように生育が遅く、9月最終週に収穫したからとも言われます』
果皮が薄く、繊細な白い花やレモンのような風味があるので食用としても重宝されましたが、病気に弱いので収量が安定せず、廃れていきました。
『0.6haの畑は四方を森に囲まれ、道がないので車で行く事もできません。林道に車を止め、山道を歩いて20分登った先に29段の石垣の段々畑があります』
栗、松、オーク、セイヨウヒイラギガシ、イチゴや柳といった60種以上の植物が自生する20ha以上の森の中を100年以上前に開拓してルマッシーナが植えられていた畑です。
『ここでは葡萄樹が主ではありません。色々な植物と動物の中に少しだけ葡萄樹がある、まさに生物多様性の中で葡萄樹は最も自然な状態で育ちます』
土壌はシルトや粘土を多く含むローム土壌で山の中腹部の、この畑は岩や小石を多く含む層があるので水はけが良く、カビに弱いルマッシーナに適している。
『畑はこの地の伝統的農業を踏襲し、アンブルスティン仕立を採用。森の栗の木で支柱を作り、葡萄樹を自由に伸ばし、森にある柳のツルで固定する』
葡萄樹はそれぞれ違った個性を持っているので同じ形に成形せず、自由に伸ばさせる事で、それぞれの葡萄樹が違った個性を強めていく。これが複雑性を生むのです。
『それぞれの葡萄樹の個性を強め、色々な個性のルマッシーナを収穫することでワインはより複雑になると考え、収穫も3回に分け、違った生育状態の葡萄を収穫する』
畑では極少量の天然硫黄、銅。森の植物の煮だし液、コンポストとビオディナミ調剤のみが使われます。畑には歩いてしか辿り着けないのでトラクター等は一切使われません。


❖海のヴェルメンティーノ

2021年には友人のカルロ・スコラがビオディナミで栽培する素晴らしい畑の葡萄を使ったワインの醸造も開始。畑は海に近いチェリアーレ地区にあり、全く違うテロワール。
『海に近く乾燥していて強い太陽を浴びるチェリアーレ地区のピガートとヴェルメンティーノはマセラシオンと相性が良く、力強い旨味と厚みが特徴』
ルマッシーナとは全く違う個性だが、これもリグーリアの伝統的ワインであり、重要と考えたマウロ。ボルドーボトルに詰め、アンティアと名付けられました。
『ヴェピの畑は標高0m。海から50mと近く、砂、ライムストーン、粘土を含む土壌で、地表の1.5m下にはビーチからの岩が多くあり、その下3mには海水がある』
下草を刈らずに残す事で雨が降らなくても地表に湿気を保ち、土壌が乾燥するのを防ぐと同時に豪雨がきても土壌が流れ出ないよう保持する役目もある。
『ピペの畑は少し内陸にあり、鉄を含む赤土土壌で雨が少なく、地中の水分量も少ないので乾燥が厳しい。ピガートが植えられていて非常に高い熟度を誇る』
昔、ザンティーアという女性とセーラーが付き合っていた。女性が何者かに殺され、その女性がその泉になったという言い伝えに合わせて、セーラー服を来た女性をエチケットにしています。