ヴァランタン・チュスラン
ナチュラルでもテロワールを繊細に表現するアルザス
❖自然醸造でピュアさを❖
辛口で有名なベタンヌ・ドゥソーヴは「急激に品質を向上させていて、今最も注目すべきアルザスの造り手」としてヴァランタン・チュスランを取り上げています。
『職人的な小規模の造り手が多いアルザスで、自然で精巧で美しいワインを造るチュスランは偉大な造り手の仲間入りを果たすに違いない』/ベタンヌ
30年続いた戦争が終わった1691年、ジョドクス・シスレはスイスからオルシュヴィル村に移住し、バーバラと結婚。こうして、チュスランは設立されました。
『1997年、ジャン・マリー・チュスランによってビオディナミが導入された。以来、16haの畑では一切の薬剤は使用されていない。自家製のコンポストのみ』
畑の周辺には葡萄以外の植物を植え、一定量の森を残す事で生物多様性を維持しています。畑の耕作は全て馬での耕作に切り替えられました。
『ビオディナミで葡萄は強くなり、収穫を遅らせる事ができるようになった。完熟を待っても、高い酸度をキープできるのでワインに深みが出てきた』
2000年代に入り、13世代目の姉マリーと弟ジャン・ポール・チュスランに引き継がれ、収量の制限。より自然と寄り添った栽培。ナチュラルな醸造へと変化していきます。
『ジャン・ポールはボーヌ醸造学校を卒業後、ブルゴーニュのドメーヌで働き学んだ。その後、ツィント・ウンブレヒトで働きながら、アルザス特有のワイン造りを学びます』
オルシュヴィルは寒いので葡萄の生育が遅く、収穫も遅い。よって発酵期間中の温度が低くなり、発酵はゆっくり、長く続く。だからこそ正確で正しい醸造が重要なのです。
『野生酵母のみでの醗酵は炊きつきが遅く、発酵が途中で止まり翌年まで続く事も。毎日状態を見ていないと危険なので収穫後から翌年までは出掛けられない』
ブルゴーニュにはないピノ・ノワールを造りたいと言うジャン・ポール。アルザスにしかない個性のワインを造る事を重要視していて、それはワイン造りの細部に現れています。
『アルザス土着品種をこの地の野生酵母で発酵させ、ヴォージュの森のオークで作ったフードル樽で熟成させる。ワインは美味しい以前に土地の味がするべき』
ヴォージュのオークで作った樽は他の樽よりも硬く、目が細かいので酸素供給量が少ない。厚みもあるので外気温の影響も少ない。ワインはフレッシュさをキープしながら熟成します。
『20kg入るカゴに15kgの葡萄を手摘みし、空気圧で12時間以上かけて雑味を出さないようプレス。ポンプを一切使わずにタンクへ移動。不安定なモストにストレスをかけない』
収穫から熟成まで過度な酸化や圧力によるストレスを出来る限り与えない。生きているワインを1番良い状態でボトリングする事でナチュラルでも繊細なバランスを目指しています。
『ナチュラルは目的ではない。混じりけのないピュアさを追求した結果、ナチュラルな醸造とナチュラルな栽培が必要になった。ナチュラルで欠陥のあるワインは好きではない』
グラン・クリュの平均収量は250hlという少なさ。葡萄のエッセンスを切り取り、化粧をしないで本来の個性を際立たせるワイン造りは次世代のヴァン・ナチュールのあるべき姿なのです。
❖モザイク状のボーレンベルグ❖
■ボーレンベルグ
ボーレンベルグは漸新世(2500万年前)の堆積物と石灰岩盤の混合土壌ですが、丘の下部には黄土やマールも存在します。どの位置にあるかによってワインは表情を大きく変えます。
『オルシュヴィル村にあるボーレンベルグはアルザスで最も乾燥するエリアで、畑と畑の間に森が多くあるので生物多様性が確保されている理想的な環境』
葡萄畑には野鳥の為の巣を100以上用意してあり、野鳥が集まり、害虫を食べてくれます。アルザス固有種のトカゲやカタツムリも生息し、自然の生態系が形成されています。
『酸化鉄の多い南東部にはミュスカ。石灰が強く出ている南西部にはピノ・グリ。黄土を含む南東の粘土石灰質の区画にはピノ・ノワールを植えている』
■フィングスベルグ(グラン・クリュ)
アルザス・グラン・クリュで最も繊細で軽やかなワインを産みます。それでいて垂直性を強く感じさせるのは美しい酸とミネラルの緊張感のお陰なのです。
『泥灰土、石灰岩、砂岩による混合土壌で頂上部の森が適度に水分を供給。砂岩が水はけを良くしている。ヴォージュの山の影響で冷気が流れ込み晩熟』
基盤は貝殻砂岩から形成されていて、上部茶色の砂岩質(酸性)で、軽い土壌。下部はカルシウムを多く含む粘土質砂土壌でアルカリ性に片寄ります。
『ベルフォール峡谷の影響でボーレンベルグより雨が多い。雨量と砂岩は好相性で葡萄はゆっくり熟し、強過ぎず、輪郭があり張りがあるワインに。貴腐菌にも恵まれる』
❖酸化防止剤無添加❖
クレマンでも非常に高い評価を得ているチュスラン。ピュアさを求める彼等は蔗糖を添加しての2次醗酵を嫌い、翌年の同じ畑の葡萄のモストを添加して2次醗酵。
『蔗糖はワインにべたつき重い甘さを与えてしまいまう。2次醗酵でさえも葡萄そのものだけで完結すれば、軽く繊細な甘味になり、ピュアさを失わない』
更に、最近は酸化防止剤無添加にも成功。亜硫酸の持つ僅かな苦みや香を抑制する作用も無くし、より葡萄、土地、ヴィンテージそのものの表現を目指します。
『僕達はナチュラリストではなく農民であり、職人でありたい。自然を後世に残しながら、正確な手作業の仕事で欠陥のないピュアなワインを造りたい』